行間2 ―獅子と子供と様々な真実―


八神祥吾と銀髪のガキに感づかれない様にエレベーターの前まで移動し、携帯電話に向かって事の重要ポイントだけを話す。
もちろん、ザキエルとかいった天使に直面しているとは言わなかった。桃香の事も黙っていた。
あくまで自分が悪魔学やら天使学やらに興味を持ったかのように思わせる事が重要だ。
「――ってわけなんやけど何かコメントは?」
ペラペラと携帯電話から本をめくったような音がする。
自分の知識を文献という外装を足して真実を固めるためだろう。
「うーん……地母神ガイアは天使というより神……というかこの世の全ての者の母親のような存在みたいだなー。神学はまだ本格的に学んでるわけじゃないから知識だけでどうこう言えないんだよなー。ま、そんなわけで文献を漁りながらの小春先生なんだぞー」
ということは実在していた……と断定することは出来ない。
「……涼は宇宙がどうやって出来たか知ってるかー?」
突然の質問に少しだけ焦った。しかし、それならば既に世界史の授業で習ったので答えはすぐに浮かびあがってきた。
「そりゃビッグバンやん! 高温高密度だった天体が空間膨張によって分離されていって……今の天体が広がってるわけやん。でもそれがなんやねんな?」
「それじゃ何で起こったかは知ってるかー?」
もちろん、知っている。涼さんは実は本当に頭がいいのだ。
桜花町ではこの程度の知識を持っている事は当然なのだが。
「簡単に言うと宇宙にあった元素――水素原子核同士が衝突して様々な元素になってそれらが元素合成されて核爆発に近いものが起こったんやろ? 涼さんは勉強家やからこれくらいは知ってるんやね。まぁ、実際には他にも無から爆発が起こったとかさっき言った通り天体が膨張した事事態がだとか色々仮説はあるんやけど」
得意げに話し終えた涼の声は何だか嬉しそうだった。
自分の中にある知識を他人に教える時は誰だって気分がいいものだ。
だからこそ”教師”といった職業はあるのかもしれない。
嬉々としている心の中でそんな事を考えると、少し黙っていた教師の声が聞こえてきた。
「それは科学的な面の理論だなー。俗に言う”宇宙論”だぞー。他にも天使学では”天界論”、悪魔学では”地獄論”、神学では”神秘論”など様々な理論があるんだなー」
涼よりも知識がある、と自信満々に言っている様な声は涼に敗北感を与えるどころか、疑問まで抱かせた。
「あーっと……? 結局萌ちゃんは何が言いたいねんな?」
自分の”宇宙論”とやらを否定気味に言われ、他の理論数種を出されても何がいいたいかなどはわかるはずがない。
「涼ー? 人の話は最後まで聞くもんだぞー? 今の話の流れからいくと地母神ガイアが関連してる理論が知りたいわけだろー? さっきも言った通り地母神ガイアは天使というよりも神に分類されるんだぞー。これはわかってるだろー? でもなー、地母神ガイアが関連してるのは”神秘論”じゃなくて”天界論”なんだなこれがー」
えっと……と少し涼は頭をかいた。
話がややこしくなってきているのだ。
「それで、その天界論の理論はどんなやねんな?」
とりあえず今は早く答えが欲しい。
何でもいいからこの状況を打破できる策が欲しい。
「ちょっと待ってろー…………えっとなー、『遠い昔、今の宇宙には世界が広がっていた。その世界を統治していたものは地母神ガイア。その世界の神であった存在だ。しかし、ある日地母神ガイアの命の源が尽きてしまった。地母神ガイアは自分が消え行く前に自分をこのような状況に追い込んだ世界を滅ぼそうとした。その時に起こったのが後の”ビッグバン”と呼ばれるものだ。その世界は瞬く間に消えてしまい、そこには新たに今の”天体”と呼ばれるものが広がった……』との事らしいぞー?」
「……萌ちゃん、今読んだ本の名前なんて言うん?」
「”優しい天使学入門”だけどなんだー?」
……優しい天使学入門て……言い回しがかなり子供向けやな……
などとちらと思った涼だったが、小春先生から教えてもらった事を頭の中でまとめてみる。
地母神ガイアの命の源が尽きてしまった、の命の源とはきっと例の天力だという事。
天界論だとビッグバンは地母神ガイアが故意に起こしたという事。
その地母神ガイアのビッグバンはとある一つの世界を滅ぼす程の力を持っている事。
そして。

今まさにその八神桃香地母神ガイアの天力が尽きようとしているという事。

「……ッ!!」
頭の中に浮かんだ最悪の状況の構図振り切るかのように頭を振る。
最悪の――何もかもが吹き飛び、跡形も無く消え、痕跡すら残らない。
この世界がそんな事になったとしたらどうしようもない。
しかし。
例え天使などいないとしても、地母神ガイアなど嘘っぱちだったとしても、小春先生がからかっているだけだとしても。
目的は最初にここへ来た時と変わりない。
ならば、こなす事は大した事ではない。
初めからしよう・・・・・・・としていた事をするだけでいいのだから。
「小春センセ、サンキューな! PiPiの話はまた明日!!」
今からじゃないのかよー!! と携帯から本気で怒っている声が聞こえたが、通話を切る。
そしてその獅子は遠いが、すぐ近くにある壊れたドアを見つめる。
すぅ、と息を吸い込みドン!! と地面を蹴り一気にドアへと一直線に駆ける。
ただ一人、大切な友達を助けるために。


Back    Novel top    Next