第二話 ―少年と先生と見た目小学5年生―


するとそこには教員の姿はなく代わりに一人の女性がいた。
金髪の艶のある長髪で、腰の辺りまで伸びている。服装は白衣で、手には名簿のようなものを持っている。
―――とここまでだと大人の女性を想像してしまうが、祥吾らの前にいたのは生意気そうな顔をした小さな少女だった。
職員室に先生が誰もいないという状況に驚きながらも少女に問う。
美羽「あれ? …ねぇ、もう先生達は朝礼に行っちゃった?」
美羽が少し姿勢を落として目測130cmの少女に尋ねると少女は少し怒っている様な顔をしていた。
少女「他の先生方はもう朝礼へ向かったわよー」
間延びした声で少女は答える。
―――ちなみに、美羽の身長は160.2cmだそうだ。
祥吾「他のって事は誰か残ってるのか?」
―――――――――――――――――――――――――――――…
時間にして5秒くらいか。沈黙が続いた。
二人は顔を寄せ合い小さな声でしゃべり始める。
美羽「ねぇ、何でこの子黙っちゃったの?」
祥吾「知るかよ。それより今は残ってる先生がどこにいるかが問題だろ」
美羽「・・・そうね」
と、美羽は何かを決意したかの様に言うと、幼稚園生に話しかける大人の様に甘い声で
美羽「ねぇ、あなた? 残ってる先生がどこにいるか知らな―――」

少女「私が先生だよー!! お前らが遅いから待っててやったんだー!!!」

それは血管が切れてしまいましたよ、あなたたち? と言わんばかりに大きな声だった。
祥吾「…? あの、美羽さん? この子質問の意味わかってな―――」
先生「いいからほら、朝礼にいくぞー!!」
と、見た目小学5年生の自称先生は美羽と祥吾の手を引っ張って体育館へと向かう。

後ろからそーっと、見た目小学5年生の先生はまるで泥棒の様な手つきで横開きのドアを音をたてずに開け、こそこそと中へ入っていった。
そこでは既にプログラムの2番、全校合唱がステージの上の長身で緑色のジャージにまとわれた女教師による指揮で行われていた。
…転入生紹介はプログラム4番のようだ。

さぁー、地獄の桜坂を上って上っておいでよ桜坂学園〜♪(ソプラノ)
自慢は購買さ、うぐいすパンからお好み焼きパン、なんと揚げパンまで揃ってるぜ〜♪(バス)
あぁー、我らが桜坂、桜坂学園〜♪(混合)

意味のわからない歌をバックに祥吾達は全校生徒の横をコッソリと走っていき、ステージ裏へと辿りついた。
先生「なんとか間に合ったなー」
祥吾「それよりこの歌詞は何なんですか? 先生。」
先生「んー? これか? ベストロさんによる歌詞だそうだー。」
美羽「…誰?」
先生「知らないのかー? 桜坂学園出身のシンガーソングライターだぞー?」
祥吾「全然知らねぇなぁ…」
美羽「ま、こんな歌詞書く奴だし、ロクな歌手じゃないんじゃない?」
祥吾「つーか、そいつにとっては うぐいすパン<お好み焼きパン<揚げパン だったのか?」
と、三人があれやこれややっているうちにプログラムは4番へ。
先の緑ジャージ先生がマイクを手に持ち
「それでは転入生の入場です―――、どうぞー!!」
などと場を盛り上げているが、生徒らはあまり盛り上がっていなくこちらとしてはなんとなく、出辛い。
祥吾と美羽ともう一人前の方にいた胸に緑のリボンをした女の子は順番にステージの上へと歩いていく。
緑リボンは中等部、青リボンは高等部の証だ。男子の場合は校章の色が違う。
生徒達からみて右から緑リボンの女の子、美羽、祥吾の順番で並ぶと
「なんと、今回の転入生は一気に三人だ!! これは前代未聞の出来事か―――!? それでは、まず中等部の子からどうぞ―――!!」
と、緑ジャージ先生が叫んでいた。何やら自己紹介をするらしい。
緑ジャージ先生から女の子へマイクが手渡され、女の子は深呼吸をし、女の子特有の高い声で自己紹介を始めた。
女の子「中等部3年、八神桃香やがみとうか、14歳です♪ 好きな食べ物は中華まんで―――」
その桃香と名乗る女の子は黒艶のある肩まで伸びた髪の毛、スカートはかなり短くなっていて、背はまだ成長期に入っていないのか、少し他よりも小さく、綺麗というよりは可愛い。といった感じだった。
祥吾(…桃香? 八神桃香っつったか? 今? いや、待て。桃香は静岡の方でのうのうと―――)
桃香「――― 一番左の八神祥吾は私のお兄ちゃんです♪ みなさん、よろしくお願いしまーす♪」
ひときわ高い声で紹介を終えた―――と、同時に体育館全域に響き渡る男子の歓声。さらに、祥吾に向けられる殺気のこもった視線。
祥吾はガンという空想上の音と共にショックを受けた。桃香も一緒に転入するなど聞いていなかったからだ。
―――八神桃香――― 祥吾の従妹にして妹の様な存在。静岡にいた頃、しばしば家を抜き出しては祥吾の所へ訪ねてくるという家出少女だ。
その度に断るが、結局泊めてしまう祥吾もどうかと思われる。
美羽も驚いた様子でこちらをみていたが、美羽の順番が来たので前を向き、紹介を始めた。
祥吾(桃香も桜坂に来るのか・・・? てことは種が・・・つーか、あれ? オレお兄ちゃんだっけ?)
少し考えていると美羽の声でよろしくお願いします、と聞こえたかと思うと再び体育館が揺れているかと思われる程の男子の歓声があがった。
順調に盛り上がってきたようだ。
「さぁ―――それでは最後にいってもらいましょう!!」
マイクは祥吾の手元にきた。桃香と同じく深呼吸をし、一気にまくしたてた。
祥吾「高等部1年、八神祥吾、16歳! 好きな事は家で新作のゲームをやる事で最近ハマったものは「ギャラクシーコスモ〜小宇宙への冒険〜」です! 嫌いな事は勉強です! とにかく勉強は全部嫌いです! よろしくお願いします!!」
いかにもやりきった、といった顔をして紹介を終えた―――が、体育館は揺れないし、歓声などひとかけらもない。
「さぁ―――転入生の紹介も終わった所でそろそろお開きにするぞ―――!!」
緑ジャージ先生は何事も無かったかの様に生徒達を教室へ返す指示を出している。
祥吾「・・・? あれあれ? 先生、ちょっとおかしくはないですか? みんなオレの事嫌いなんですか? 転校生紹介はもしかして女性限定イベントだったりするわ…」
先生「よーし、美羽ー、祥吾ー、教室行くぞー」
桃香「お兄ちゃん、また後でね♪」
―――見た目小学5年生の先生は美羽と不満そうな祥吾を連れて教室へと移動していく。


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