第十四話 ―少年と結界と叫ぶ少年―
少年は手を伸ばす。
目の前の、ほんの数センチ先にある見えない結界に向けて。
慎重に、ゆっくりと。
実際”見えない結界”に向けて手を伸ばしているのだ。
いつそれに触れるのかは推測でしかわからない。
――と、その時。
何も無いはずの空間からパツッ、と電気がはしったような音がした。
一瞬だが、空間が歪み祥吾の手が弾かれそうになった。
――ここか。
その結界の位置を完全に把握した祥吾は左手を思い切り伸ばす。
バチンッ! と今度は弾けたような音が鳴り、祥吾の左手も吹っ飛ばされそうになる。
ガクガクと震える左手をもう使い物にならなくなった右手で支える。
先ほどのザキエルの防御壁とは格が違いすぎる。
少しでも、一瞬だけでも気を抜いたりでもしたら腕の骨が逆方向に曲がってしまいそうだった。
しかし祥吾はより一層力を込める。
再生するのではなく、破壊するのかのように力を込める。
「ら、ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――ッ!!」
刹那。
祥吾の体が前につんのめる。
まるで何もない場所を思い切り押した時のように。
そう、祥吾は空間の再生に成功した。
防御壁が張られる前の何も無かった空間への再生を。
つんのめったせいで桃香に突っ込んでしまいそうになったが、足を一歩前に踏み出してこらえた。
「衝撃吸収領域ノ消滅ヲ確認。再生ス。再生準備中――――再生不可能。強行手段ヘ切リ替エ。周囲ノ破壊ヘ残リ全テノ天力ヲ注グ。”破壊による破滅”準備中――発射マデ残リ30秒、29秒、28秒――」
「――ッ!! ガキ! 後は任せたから何とかしやがれェッ!!」
後ろを振り向きながらそう叫ぶとそこには少年の姿はもう無かった。
既に祥吾の桃香を乗せた台を挟んで向こう側で桃香に手の平を向けていた。
その姿、状況、少年の顔を見た祥吾の脳裏に浮かんだのは最悪の出来事。
「な、にするつもりなんだ……? まさか……桃香を……?!」
震える口調で祥吾は問いかける。
その問いかけを聞こえていないかのように無視をしている少年。
返事の代わりに、少年は右手に人差し指をこちらに向けてきた。
その行動を祥吾が確認した瞬間、祥吾の体は後方にある壁に叩きつけられる。
「っは――――――ッ?!」
激突と同時に怪我を負っている右腕に電流が流れたかのような激痛が走る。
少しでも気を抜いたら気を失ってしまいそうな痛みにうずくまる祥吾だが、顔だけはしっかり少年の方へ向ける。
「用済みは黙ってみてろ。これしか方法がないんだよ…………」
深く息を吸い込み、吐き出し、さらにもう一度息を思い切り吸い込んで
「ああああぁぁぁぁぁぁァァァァァァァ――――!!」
甲高い声で少年は叫ぶ。叫びながらもその右手はしっかりと桃香の腕を掴んでいた。
少年は叫び続ける。体の中のもの全てをひねり出すかのように。
そう、ひねり出すかのように。
少年は叫ぶ。叫ぶ。叫ぶ。そして叫ぶ。
必死の形相でザキエルを睨みつける祥吾だが、体がいう事を聞かず言葉を発するだけでも精一杯だった。
「やめろ! やめてくれェェェェェェェエエエッ!!」
祥吾が精一杯の力を振り絞り叫んだ直後、爆発が起こった。
少し冷たく、しかし温かい光の爆発。
爆発の付き物かのように思えた風は爆風などでは無かった。
天力の事など1ミリも知らない祥吾だが、それは少年の天力そのもののような気がした。
眩しさに目を閉じていた祥吾だったが、まぶたを貫く熱い光線が止んだのを確認し、目を開ける。
しかし。
桃香が眠っていた台の向こう側に少年の姿は無かった。