第十二話 ―少年と復活の獅子と見えないけど見えるもの―


涼「――――――萌ちゃん!? ちょっと聞きたい事あんねんけど!」
小春先生「んー? その声とウザいネーミングセンスは涼かー? 悪いけど今至福の一服中だからまたあとでなー」
涼「ちょ、ま、センセ! ちょっとでいいから話聞いてくれへん?!」
今まで数十回に及んでかけていたにも関わらず一度も出なかった小春先生がやっと出たというのにただで切るわけにはいかない。
ふぅーと煙草の煙を吐き出しもう一度電話に耳を傾ける。
小春先生「そんな事言ったってなー学校も喫煙時間と場所が限られるようになっちゃったから……小春先生の休める時間と場所が一気に減ったんだぞー……。家で煙草吸ったら部屋に臭いつくし街で吸ったら補導されるしで……小春先生は本当に困ってるんだよー!!」
何故か半分泣いているような声ですがる声が聞こえてきた。
幼稚園生の相手してるみたいやな……と思いつつも意を決して進言した。
涼「わーかった、そんじゃ小春先生の好きな『PiPiの季節のフルーツ盛りパフェプリン添え』おごったるから……な?」
――PiPiとは桜坂学園の近くにある今人気沸騰中のカフェPiPiの事だ。
そこの季節のパフェが限定100個で毎日売られている。しかもそれらは全て開店と同時に売り切れてしまう。
何としてでも食べたい人達は朝の5時から並んで買っているという幻級の一品だ。
一度その行列を見たことがあるが、大人気ゲームソフトの発売前日にいい大人が徹夜で並んでいるようなものだった。
当然、涼は食べたことなんかないし噂でしかその美味しさは聞いたことがない。
ただ、この世の何よりも美味しくその美味しさの前には誰もがほっぺを落とす……とクラスの女の子が言っていた気がする。
小春先生「本当か?! 約束だからな?! よーし、それじゃ話とやらに付き合ってやるぞー」
驚きと喜びを隠しきれていない声(しかもドンドン、と跳ねているかのような音まで聞こえた)で小春先生は叫ぶとたばこを灰殻入れに捨て、携帯に集中し始めた―――

                      ★

銀髪の少年は頭上に球体を持ち上げていく。
祥吾は最後の最後まで冷や汗をかきながらも考えた。
ドアまでは数メートル、しかしドアは開かない。
後ろは壁、例え祥吾に破壊系の能力が宿っていたとしても破壊までのタイムラグによって潰されてしまうだろう。
左右には動けるが祥吾と少年の距離は十メートル前後。動いた所で少年の攻撃を避けきれるとは考え難い。
上? 自分には特別に跳躍力がある、といった能力は無い上に床から天井までは大人二人分弱ほどの間しかない。
どっちだ? どっちの方が被害が少なく済む……
そうこう考えている間に銀髪の少年の右手は振り下ろされる。
何故か全ての動きがゆっくりに見える。まるで時間の流れが遅くなったかのようだ。

――受ける!!

少年の右手から完全に風の球体は離れる。ここから見ると何か蠢いているもの……球体の生き物がこちらに向かってきているようだ。
ゆっくりゆっくりとこちらに少しずつ向かってきている。
球体の向こうには歪んだ銀髪の少年の笑みが見える。
何か言っているようだがゆっくりすぎて聞き取れない。
あと4メートル、3メートル、2、1……!!
祥吾「らァァァぁぁぁああああアアアッ!!!」
豪!! と激しい音を立てながら進んできた風の塊は祥吾の右手と激突する。
祥吾は自分の右手から四方八方に空気の流れを感じていた。
空気の流れ、と一言で片付けられるレベルの話などではないが。
それと同時に激しい痛みも同じく感じていた。
ブルブルと震える右手を容赦なく風の球は引き裂こうとする。
恐ろしいほどの力で祥吾の右腕の感覚を奪い取っていく。
しかし。
ここで負けるわけにはいかない。
もちろん、ここで負けたとしても誰も文句は言わない。
誰もが何も知らないでこの物語が天使サイドで完結するだけだ。
だけど。
祥吾「俺は…! 天使エンドが見たくてここに来たわけじゃねぇんだよォォぉッ!!」
より一層拳に力を込め、全身の力を使い右手に絡まっている風を振り払うかのように突き出す。
腰を回し、全体重を前のめりにかけ、拳を固めて、全てをその腕に託して。
刹那。
バァン!! と大きな風船が割れる時のような音がした。
その音が鳴るが早いか、小さな研究室に大きな風が巻き起こる。
銀髪「うっわー……壊しちゃったよ……マジで……?」
銀髪の少年が音のした方向を見つめるとそこには身長もさほど高くなく、体格も良いわけではない。
見た目で圧倒するわけでもないごくごく平凡な一人の男が立っていた。
あえておかしな所を挙げるとしたならばボロボロの衣服と血だらけの右腕。
日常を生きている人間には珍しい光景。
銀髪「人間なんかに壊せるほど力抑えた覚えないんだけどな……久々だからミスったかな……」
祥吾「悪いけどな……こんな所で死ぬつもりはないんだよ……」
どれだけ血だらけになっていたとしても。
どれだけその体が傷ついていたとしても。
どれだけ自分が不利な状況下だとしても。

祥吾「てめぇをぶっつぶす!! それだけだ!!」

再び少年はその腕を振るう。
ただ一人、大切な人を守るために。
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